神門ぺぷし闘魂創作日記

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zoom RSS 素敵な神の殺し方     神門ぺぷし

<<   作成日時 : 2007/05/19 00:58   >>

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 アキオは地平線に向かって歩こうと決めて日曜日の朝に家を出発した。誰もが持っている神という存在を削除するために。世界中の人間の頭の中から神を消していく。それは膨大な仕事量だろう。特に宗教関係者は、厄介だ。経典やら聖者の教えやら言葉の世界や実際の宗教儀礼の経験、体験、慣習といったもので神を正当化している。反対にやり込められてしまう危険がある。生半可な知識は、逆効果だろう。知らないことは素直に知らないという勇気が、この場合には必要なのだ。

 調和のとれた殺人は美しい。黄金分割に彩られた優美な殺し方、一対一・六一八の割合を発見した人をリスペクト。科学する心が人を美しくする。すべての科学者は美しくあるべきだ。美しい科学のために。科学の発展のためにも神を殺さなければならない。すべての神を。倒置法を教えてくれた神にもグッバイを言おう。それが礼儀だ。

 精神障害者の神は、精神を病んでいる、はずだ。だから、その経典は面白いだろう。盗み見して小説を書こう。ベストセラーになるはずだ。世の中には狂人があふれているから売れて売れて困る。段ボールの箱の中に売上金を突っ込んで北へ送ろう。金は金さんのところへ。

 陸上競技場の横に図書館がある。開館時間前だが入口に人が並んでいる。自転車でやってくる人もいる。蛍光色のウエストポーチをつけた女性が図書館横の駐輪場に自分の自転車を停めると足早に入口に向かった。まだ開館時間には、少し余裕があるが、何が彼女の気持ちを焦らせるのだろうか。木々の緑が目に優しく、鳥の鳴き声が聞こえる。本を読むのには、最高の日だろう。
 でも本を読んでいる暇はない。歩き続けなければならない。三車線の車道の横の舗道を歩く。三十センチ角のコンクリートブロックが敷き詰められた道だ。車のエンジン音が絶え間ない。時折バイクの音も混じる。
 精神病院の横を歩いていた。白い建物だった。五階建てで二階以上の窓に鉄格子がはまっていた。三階の南端の窓からパジャマ姿の男が外を見ていた。年齢はわからない。縦縞のパジャマだけが目立っていた。
 アキオが歩いていると携帯電話が鳴った。
「わたしの神様を殺してください」
 十五歳の少女からメールが届いた。リストカットを繰り返している娘だった。
「なぜ?」と返信した。アキオの脳裏に、十字架にはりつけにされたキリストの両腕に切り傷がある絵柄が浮かんだ。
「神様がいなければ、わたしは悩まなくてすみます」と返事が来た。
 若い女が、キリストのわき腹を槍で突いていた。女は両腕に包帯を巻いていた。カッターナイフで切った傷があるに違いない。
「悩みは何?」と送った。
 キリストは殺されたから神になれたのかもしれない。死ぬことで生きるものがある。
「神様の存在が悩みの種です」
 アキオが嘆きの砂漠に悩みの種を植えると、十字架が生えてきた。いくつも生えてきた。やがてすべての十字架にキリストがはりつけにされた。火炎放射器を背負った若い女が、らくだに乗って現れた。砂漠の十字架に炎を向けた。蝋燭が溶けるように、十字架とキリストたちは溶けて流れて大地に吸い込まれていった。白い砂は、黒く濁っていた。
「ぼくにできることは何?」と送った。
 黒くなった砂を乾かして白い砂と混ぜていた。日に照らされて、徐々に砂は白くなっていった。
 いつまでも返事が来なかった。
 アキオの世界では、風が砂を巻き上げて遠い街に運んでいった。街の住民の目や喉に砂は入り込んだ。咳をしたり、目を真っ赤に充血させた人たちが増えた。それが嫌な人は窓を閉め切って部屋から出なくなった。
「あなたに何ができるのですか?」ようやく返事が来た。
 できることとできないこと、それを区分して箱に入れていく。二つの箱は、すぐにいっぱいになった。『できる』と書いた箱を梱包してメールに添付して少女に送った。
すぐに「ありがとう」という返事が来た。それからメールは届かなくなった。
 今度メールが届いたら少女の神様を殺しに行くことになるだろう。でも彼女の家を知らない。まだ会ったこともないので顔も知らない。ほんとうに少女なのかもわからない。男や大人の女が少女のふりをしてメールを送ってきているのかもしれない。そんなことは、あまり重要ではなかった。目に見えるものだけを信じていては、この世の中では生きてはいけない。ましてや盲人は言葉や音だけを信じている。視覚に頼っていない。盲人で聴覚障害者、そして精神障害者であるといったさまざまな障害を同時に背負った人は、何を信じているのだろうか。
 アキオは、しばらく頭の世界で遊んでから実社会に戻ってきた。交差点にやってきた。北東の角に役所が建っていた。今日は休日なので休みだった。裏口に守衛がいた。老人だが背が高くてがっしりした体格だった。
「こんにちは」
 アキオが声をかけると不審そうに顔を見た。
「今日は、休みですよ。役所には誰もいません」
「あなたが、いるではありませんか」
「私は、警備会社の者です。職員ではありません」
「役所には、あなたがいる」
「役所の人間ではありません」
「そうですか」
「なにか用ですか」
「神様について詳しい人がいるかと思って来たのですが」
「明日の朝に来てください。受付で申込み用紙をもらって書いてください」
「あなたは神様について詳しくありませんか」
「私は、役所を訪ねて来た人に必要以外のことを話すことが禁じられています」
 四角い顔を引き締めて答えた。
 とりあえず帰宅しようと思った。パソコンだけが置いてある部屋に戻った。
 デスクトップ型のパソコンのモニターの上を小さな水牛が横切っていく。牛は神の使いであるという言い伝えがある地域がある。きっとそこからやってきたに違いない。その地域の神を殺さないように水牛の形をして頼みに来たに違いない。パソコンの右上から左上まで歩いていった。水牛は黒い。角も黒かった。今なら手をのばして水牛を手の平に包んで握りつぶすことができる。簡単な殺戮だった。それはつまらないことだった。
 
 ここまではパソコンの中での出来事だったかもしれない。仮想世界、それも実世界、どちらであっても問題ではない。どちらもアキオ自身の問題だった。読者の問題ではない。これを読んでいる人にとっては、文字でしかない。文字という印刷物が組み合わさった文章でしかない。そこから世界が構築され、動き出す。
『いっしょに神を殺しに行きましょう』
 アキオは、これを読んでいる読者に対してメッセージを送った。
 ここからは、読者のあなたの問題が発生する。
 あなたは、たった今からアキオになる。そして神を殺しに旅立つことになる。

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初めまして・・・じゃない気がします。お元気ですか?
chick
2007/07/17 14:03

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